多様な文化・価値観を活かし合えるチーム創りとは? 〜世界との関係性から日本人を読み解く〜

「ORSC(システムコーチング )×ダイバーシティー」
多様な文化・価値観を理解し合い、活かし合えるチームを創るためには何が必要かについて考える

〜お互いを理解し合い、活かし合えるチームを創っていくにあたり、ホフステードモデルやORSCの知恵がどのように役立つか〜

はじめに

「ダイバーシティー」と聞くと、皆さんはどのようなイメージを思い描くでしょうか。CRR Global  Japanでは、異文化理解を促すホフステード6次元モデルを日本に紹介し、文化の多様性をビジネスに取り込むプロフェッショナル達を支援してきたホフステード・インサイツ・ジャパンの宮森千嘉子さんを迎え、弊社トレーナーの森川有理とのトークセッションを開催しました。森川はシステムコーチングを米国から日本に持ち帰ってきたCRRGJを代表するトレーナーのひとりであり、人と人の間にある様々な関係性に向き合ってきたシステムコーチです。2019年10月に行われたイベントをレポートします。

※ホフステードに関する詳細はその書籍に譲ることにし、以下、宮森さんの解説を要約します。

イベント:ORS@ダイバーシティー
多様な文化・価値観を理解し合い、活かしあえるチームを創る
〜世界各国との関係性から日本人を読み解く〜

異文化を理解するためのスキルCultural Intelligence

国際ビジネスの渦中にいる人はもちろんのこと、今異国とは関わりないという人であっても、約240万人(**)の外国人が在住している日本において、異文化の人と関わりあう、そして協働することは差し迫る社会的テーマでもあります。多様な文化的背景の中で効果的に協働する能力、スキルをCQ:Cultural Intelligenceと 呼びますが、CQを構成する4つの要素、Drive、Knowledge、Strategy、Actionのうち、ホフステード博士のモデルは特にKnowledge の要素の助けになります。まず、相手と自分を知ることに役立つのです。CQの4つの要素はあくまでもスキルなので、誰でも伸ばすことができることも加えておきます。

「国民文化」、国としての集団の価値観を表すもの

今回ホフステードモデルの中で特にご紹介したいのが「国民文化」です。国民文化とは、人が生まれて10−12歳くらいまでの間に無意識の中で刷り込まれる価値観です。集団としての価値観はグループのルールの基本となり行動様式につながります。集団のパフォーマンスの鍵を握るものです。だからこそ文化の理解が重要なのです。いったん無意識に取り込まれた特性を意識化するためには、他との比較が有効です。ホフステード博士はこの相対的な比較ための軸を6次元で整理しました。

ホフステード6次元モデルから見る日本の特性

このモデルでは6つの軸をそれぞれ0から100までの間でスコア化しています。
今回はそのうちの「権力格差」「個人主義/集団主義」「女性性/男性性」の3つをご紹介します。

1つめは「権力格差」。小さい/大きいで表します。権力に対して力を持っていない人がどのように感じるかが現れます。「国民文化」を表すもので、欧米だからとひとくくりにはできません。たとえばフランスは権力格差の大きい国民文化を持ち、対してオランダは小さい文化を持つ。日本は真ん中に位置します。権力格差の大きい国においては、リーダーは尊敬を集める存在、人間としての在り方が問われます。

2つめの軸は「個人主義か集団主義」か。個人主義の強い文化においては「私」が起点の思考を持つことが重視されます。仕事について例を挙げると、たとえば米国では人間関係がなくても仕事ができれば問題ないし、なくてもできてしまう。対して自分の属する集団の中での調和を重視するのが集団主義です。排他主義的な要素を持ちます。日本を見てみると権力格差同様、真ん中に位置します。

個人主義・集団主義の各国のスコアはこちら(ホフステード・インサイツHP)

3つめは「男性性か女性性」か。目標を達成し、勝つことを重視するのが男性性の強い文化。男性性の強い国においては、仕事は大変重要で、また不確実性を嫌います。達成志向と名前を変えても構いません。対して目標達成よりも個々の生活の質を大切にし、弱者に手を差し伸べる寛容な社会の仕組みに象徴されるのが女性性の強い文化です。福祉国家北欧や、オランダのパートタイムと正規雇用とにほぼ差のない雇用システムや働き方は、女性性を理解するよい例と言えるでしょう。この軸で見てみると日本は非常に男性性の強い国です。

女性性・男性性の各国のスコアはこちら(ホフステード・インサイツHP)

不確実性の回避が高い日本

曖昧で人生に常につきまとう不確実なことを感情的に受け入れない、不確実なことを嫌う、それを不確実性の回避と呼びます。日本は不確実性回避の高い国です。ストレスが強く、不安感も強い。生徒が正しい答えを先生から欲しがるように、専門家に頼りたいという気持ちを強く持つ傾向があります。不確実性をコントロールするためのルール、形式、構造化された環境を求めます。トップマネジメントが日々のオペレーションにフォーカスする点が特徴的です。男性性が強く、不確実性を嫌う点が日本の特徴的な点と言えます。

不確実性の回避の各国のスコアはこちら(ホフステード・インサイツHP)

中庸に位置する日本、その可能性

「権力格差」と「個人主義/集団主義」は相関します。どちらも中間点にあるのも日本の特徴で、加えて男性性が強く不確実性回避の要素を持つ。世界各国との分布図で比較してみても、ユニークな立ち位置にいます。そして、この立ち位置を俯瞰的に見てみると、世界の中で日本という国が果たせる役割、特性、可能性が見えてくるようにも思います。たとえば、「権力格差」が低く「個人主義」の強い国、そして不確実性に寛容な国である米国で生まれたコーチングを、「権力格差」も「個人主義/集団主義」も中間にあって、不確実性を嫌う日本で使っていくことの難しさを耳にする反面、コーチングという文脈においても、世界の一部である日本という意味においても、「中庸」にある日本人のリーダッシップに可能性があるようにも思います。

(セッションの後半では、システムコーチングの事例や文化の衝突を6次元モデルの軸で紐解きながら、異文化への理解を深めて力に変える、相対的な視点を持つこと、ニュートラルな視点を持つことの可能性ついて語られました)

異文化とリーダーシップ、システムコーチングの例から

システムコーチは、異なる文化的背景を持った組織がM&Aなどをきっかけに新しいマネジメントチームを立ち上げるケースや、様々な国籍を持つ人たちが新しいプロジェクトをスタートさせるといったケースに立ち会うことがしばしばあります。仮に戦略や組織図の上では合意があったとしても、ひとたびメンバー間の関係性に目を向けると、異なる背景を持ったもの同士がお互いを認め合っていない、見えない部分で感情的対立が起きているといったことはよくあります。そうした状態から前へ進んでいくための第一歩は、今起きている真実に自覚的になることです。見たくないものも見て、声になりにく声にも耳を傾けて、システムのありのままの現状を見立てていくプロセスは、相手も自分も相対化して理解を深めていくホフステードモデルに共通していると思います。

組織の変容のプロセスに立ち会う時、コーチとして意識することは、変化の起点となる個々人のパーソナルなリーダーシップに注目するだけでなく、チームとしてのリーダーシップを励まします。共通の目的を明らかにしながら、本音の感情を吐き出せる場を作り、共通の体験を生み出し、新たな文化へと合意形成していきます。組織の構造やそれを生み出してきた歴史、個々人が果たしてきた役割、コミュニケーションの傾向やパターンなど、それまでメンバーにとっては「当たり前」とされてきた組織の生態系を明らかにしていくのです。メンバーが本音で対話を続けるほどに、「システムの姿」が解像度高く見えてきます。そのプロセスそのものがメンバーのつながりや共感を生み、感情的変容が始まり、システムレベルでの変化が起きていきます。徐々に、違いに対する恐れよりも好奇心や理解が進み、その先に協働していく可能性と希望が見えてくるのです。

ホフステードモデルは、無自覚に慣れ親しんだ視点をはずして、相対的な視点から文化を意識化し理解していきますが、システムコーチングは、本音の声を出し合い、耳を澄ませあう対話の場を通じて、システムの生態系そのものを明らかにしていくことで課題解決を支援していきます。

システムコーチングの関わりを振り返ってみると、変化をしようと葛藤している組織の只中に立ち、生々しい本音の声を引き出しながら新たな組織の文化を形成するサポートを、どの意見にも肩入れすることなく中立の立ち位置からしていることに気づきます。それはホフステードモデルで見ると、「権力格差」「個人主義/集団主義」の中間にいる日本人的な「中庸」の関わりであるとも言えます。リーダーシップというと、立場をとって強く主張する、皆を導いていくカリスマリーダーのような姿を想像しがちですが、それはリーダーシップの一側面でしかありません。間に立つリーダーシップ、”in-betweenのリーダーシップ“もあって良く、そのあり方こそが今求められ、もっと広がればいいという願いを持ってシステムコーチングを伝えています。
日本という文化背景を持つからこそ、その強みをもっと自覚して、それぞれの現場で間に立地ながら協働していく方向へと合意形成していかれるリーダーが世界にもっと増えることを願っています。

おわりに

成功の陰にある失敗やごくパーソナルな動機を背景に、よりよい異文化との出会いと恊働を願って実践し、支援する二人のセッションでした。アプローチは違えど、双方世界平和を願ってやまないようにも聞こえました。国の文化を理解することが、結果自分を理解することにも返ってくる。そして、自分に対する理解を深め、そのことも含めて本音で語り合うことで多様な価値観を活かし合えるチームが生まれてくるのではないかと思われます。
日本人だからこそできるリーダーシップであり、チームビルディングなのではないでしょうか。

<今回のゲスト>
宮森 千嘉子
Hofstede Insights Japan ファウンダー / 取締役 / マスターファシリテーター

サントリー広報部勤務後、HP、GEの日本法人で社内外に対するコミュニケーションとパブリック・アフェアーズを統括し、組織文化の持つビジネスへのインパクトを熟知する。また50 カ国を超える国籍のメンバーとプロジェクトを推進する中で、多様性のあるチームの持つポテンシャルと難しさを痛感。「組織と文化」を生涯のテーマとし、企業、教育機関の支援に取り組んでいる。英国、スペインを経て、現在米国イリノイ州シカゴ市在住。
異文化適応力診断(IRC) , CQ(Cultural Intelligence) , GCI (Global Competencies Inventory), 及びImmunity to Change (ITC) 認定ファシリテータ、MPF社認定グローバル教育教材<文化の世界地図>(TM)インストラクター、地球村認定講師、デール・カーネギートレーナーコース終了。
ORSCプログラム 応用コース修了。
共著に「個を活かすダイバーシティ戦略」(ファーストプレス)がある。青山学院大学文学部フランス文学科、英国 アシュリッシビジネススクール(MBA)卒。

<参考書籍>

ホフステード・インサイツ・ジャパンhttps://hofstede.jp/

(*)宮森千嘉子、宮林隆吉(著)『経営戦略としての異文化適応力 ホフステードの6次元モデル実践的活用法』JMAM出版、2019年

(**)法務省「平成31年・令和元年のプレスリリース」

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