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ORSCLabo 20.07.14

チーム医療は医療環境をもっと楽にしてくれる   〜医療者が陥る役割のジレンマ〜

(ORSC Labo 第4回目は「チーム医療は医療環境をもっと楽にしてくれる」と題して、組織やチームを運営する時に役立つ「役割」について考えてみたいと思います。)

昨今、ニュース等で新型コロナウイルスによる医療崩壊の危機が伝えられていました。アメリカ、スペイン、イタリア等、多くの先進国では医療現場の崩壊が報道される中で、日本においては高い医療水準を支えている医療者の方々の知識・技術、意識の高さ、そして助け合いの精神が医療崩壊の危機を救ったのではないかと思っています。同時に、長期化する中で病院によっては賃金カット、退職希望者が続出するなど関係性の歪みが明らかになり始めているところもあります。

私は前職、製薬会社にて15年間医療現場に関わり、現在も医療者の方々と「医療コミュニケーションラボふらっと」(右写真)という研究会を運営しています。医師の方々をはじめ、多くの医療従事者の方々と接する中で、目の前の患者さんや未来の患者さんのために常に学び続け、すぐに現場に活かそうとされる姿や、プロフェッショナルとしての仕事への責任感を通して、私の人生にとって、多くのことを学ばせていただく機会を得ました。同時に、プロフェッショナルだからこそ、専門性が非常に高く、立場や考え方、視点の違いから対立が生じやすく、病院内の人間関係がギクシャクしている場面も目にしてきました。

たとえば、特に最終責任者となりやすい医師、マネジメント層の「指示する人」の意見を尊重し過ぎて、スタッフは「指示に従う人」という関係性を見かけるケースです。「指示する人」の側は自分の意見を伝えれば、それで「伝わった」と捉え、本人の合意がないまま物事を進めることがありますし、「指示に従う人」は一見、従っているかのように見えるのですが、感情を溜め込み、本音で言葉を交わさなかったり、上下関係を作ることで責任を回避する場面です。

この数年、医療現場では権限委譲が進み、医師に集中していた役割や責任が分散され始め、多職種連携が求められるようになっています。プロフェッショナル集団が「チーム」という形をなしながら医療を提供していく体制が求められています。そのため、前述のような無意識的な関係性が、本当の意味でのチーム医療を進め難くい環境にしているようにも思えます。

これは企業においてもよくある話ですが、社長、事業部長といった組織全体の情報を知っている役割を担う人や、士業やプログラマーといったように特殊な仕事をする役割を持っている人に仕事が集中し、責任や負担が偏ることがよくあります。もちろん、人によっては責任を持つことが、そのやりがいにつながったりもします。しかし、ソーシャルメディア等、社会の目が厳しくなる中で、個人としては抱え切れない程の責任の大きさになってきており、負担が増しているようにも見えます。

「人」と「役割」が一体化すると、本音と建前が生まれる

長年医療業界に携わり、あらためてシステムコーチとして一歩引いて医療に携わる中で感じるのは、「人」と「役割」が一体化しているということです。たとえば話をする時、自分のことを語るというより、「医師として」とか「看護師長として」という職業や役職としての役割から語ったり、行動する方が多くいます。その人と役割が重なることで責任感も増します。同時に、本音と建前が存在し、職場では「◯◯した方がいい!」と言っておきながら、実は本心は違っており、本人はジレンマに陥ったり、自分の感情を押さえ込んで立場を取る必要性を迫られることもあり得ます。最近は、病院関係者の方から、看護師は役職者になりたがらず、役職についても1〜2年で退職する若手が多いと伺いますが、一つの要因として、本音と建前が多くなるからではないかと思われます。こうした時に、私たちORSCでお伝えしている「役割」の考え方が組織やチームを運営する時に役立つのではないかと思っています。

関係性における「外的役割」と「内的役割」

私たちシステムコーチは、組織やチームと向き合っていく時、大きくは4つの役割を扱っていきますが、今回は、次の2つの役割に絞ってご紹介したいと思います。「役割」を持つその人自身とは分けて考え、常に組織・チーム(システム)の中で生きて、影響を与えていると捉えて組織をみていきます。

 ・外的役割:システムの機能を満たすためのもの

 ・内的役割:システムの感情的ニーズを満たすためのもの

この役割はその人そのものと分けて考えて扱い、常に組織・チーム(システム)の中で生きて、影響を与えていると捉えて組織を見ていきます。

たとえば、医師や薬剤師、管理栄養士の方は職業柄、疾患教育や服薬指導、食事指導など、患者さんに対して「教える人」「指導する人」という役割を取る方が多くいます。また、医師はあらゆる場面で責任を担うことがあり、「意思決定する人」という役割や「全体を俯瞰してみる」という役割を取る方が多いです。看護師や理学療法士の方々は、患者さんの身近なお世話や体調管理に関わる場面に立ち会い、患者さんの「話を聴く人」「寄り添う人」などの役割を取ることが頻繁にあります。こうした組織やチーム(システム)の外面的な側面を維持していくためにある役割をORSCでは「外的役割」とお伝えしています。

一方で、元々の明るい性格や、家庭環境などから育くまれた個性、性質を活かして、自然に誰とでも「仲良くなれる人」「人と人をつなげる人」という役割であったり、何か新しい取り組みをする時に、批判的な立場から「批判や文句を言う人」という役割を取る方もいます。これらは職業や肩書きとしての「外的役割」とは違い、組織やチームが満たされるべき感情的なニーズや感情的機能を果たすための役割と捉えます。私たちORSCではこれを「内的役割」と呼びます。これらの役割は、日々、組織・チームの中で仕事する時に前提としてあるもので、無意識的に行動していることが多くあります。

役割はシステムが機能するために必要

私たちはシステムが順調に機能するためには、この「役割」が効果的に機能していくことが大事だと考えています。役割があることで、課題は効果的に遂行され、その分担が明確になります。同時に、役割が硬直化してしまい、個人が負担を感じるようになった時、問題の種にもなります。また、自分自身や他の人が「その役割は◯◯さん」というように、役割と人を混同すると、期待と不安で息苦しく、身動きができなくなる人もいます。さらに、人は様々な人生を歩んできており、その過程で身につけた内的役割があります。身につけてきた内的役割は、関係性によって全く機能しなくなることもあります。

医療現場で理解されることがエンパワーメントにつながる

私が病院等、医療従事者向けにシステムコーチングのセッションを行う時や医師へのコーチングを行う時に、この役割についてご紹介する機会があります。その際に必ずお伝えするポイントが3つあります。

病院でエンパワーメントについての対話記録

・「役割」と「人」は別として捉える

・役割はそのシステムが機能するために必要だから存在している

・役割はその組織・チームの関係性システムが作り出したものであり、個人の責任ではなくシステムの責任である

この話をすると、院長やリーダー的立場に立つ方の中には、自分が担っている役割の多さや大変さを部下に理解してもらえて、「気持ちが楽になった」と話す方がいます。また、一部の人に役割が偏ることでエンパワーメントが進んでいないことを理解して、より機能していくためにどうすれば良いかを考えるきっかけが生まれたり、権限を分かち合うために何を手放し、何を引き受けるのかについて話すこともあります。

一方で、職務に真摯に取り組んでいる方の中には戸惑いをあらわす方もいます。その背景には「医療者たるものこうあるべき」や「自分がいなければ…」という声におされ、責任を担うことが当たり前のように感じているようにみえることがあります。もしかすると、その正義感や想いがあるからこそ、その組織になくてはならない存在になっているかもしれませんし、日本の医療崩壊の危機を救っているのかもしれません。しかし同時に、問題が明るみにならないまま、闇の中で増えているようにもみえます。特に、昨今の医療で起こっている様々な問題は個人の責任で抱えるには、あまりにも大き過ぎると思っています。そのため、こうしたセッションを通じて組織・チームで一緒になって今後の医療の在り方を考えていくきっかけになると良いと思っています。

システムコーチとして一言

私はチーム医療こそ、お互いの「外的役割」「内的役割」を理解し合い、多様性を活かし合えるようになると、より楽に、より豊かな環境になっていくのではないかと思っています。「多様性を活かし合うチーム医療」を実現する方法として、「相手を理解する」「相手の気持ちになってみる」といった策が考えられますが、これは言うは易し、行うは難しです。医療者や企業で働く方々の中には、システムを機能させるために「外的役割」に追われ、自分のリアルな感情を感じないようにしている人が多いのではないでしょうか。そのため、「自分が今この瞬間、何を感じているのか?」を意識することから始まるのではないかと思っています。

「外的役割」はシステムの機能を満たすためのもの。「内的役割」はシステムの感情的ニーズを満たすためのものとご紹介しましたが、まずは自分の外的な役割を書き出してみることをお勧めします。そして、その役割を一旦遠くから眺めてみて、役割一つ一つに対しての自分の気持ちや想いなどを感じてみてください。その感情はシステムを機能させていくために必要なものです。なぜなら、その組織やチームがより機能しようとすると、「内的役割」も必要だからです。役割の奥にある気持ちや感情を確認することで、チームや組織への関わり方もより意識的に行動できるようになると思います。そして可能であれば、ぜひチームのメンバーでお互いの役割などについて書き出してみて、お互いに感じていることをシェアしてみてください。自分たちの役割を見直すきっかけになるのではないかと思います。

  • 原田直和

    • 原田 直和
    • CRR Global Japan合同会社トレーナー
    • ORSCC, PCC, CPCC,TLCP

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    1975年山口県宇部市生まれ。
    大学卒業後、外資系製薬会社にて15年間、営業の現場から日本の営業戦略企画、組織開発担当を従事。様々な営業組織の経験を通じて、チームメンバーや組織内の関係性が業績・成果に影響を与えること実感する。
    その経験をもとに2014年に「誰もが自由にイキイキと生きれる持続可能な社会・会社の組織創り」をテーマに現在のHeart of the Earth株式会社を設立。
    システムコーチとして大手企業からベンチャー、中小企業、行政/NPO、病院など様々な形態の組織風土改善プロジェクトや次世代リーダー育成プログラムなど組織開発サポートを手がける。また、経営者や医師など組織のリーダーに対する1on1のコーチングを提供している。その他に、大学生向けビジネスインターンシップ「海外ビジネス武者修行プログラム」のファシリテーターとして、次世代リーダーの育成にも力を入れている。
    CRR Global Japanの創設に関わり、現在は社内の経営(主にマーケティング・法人)部門を担っている。

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