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ORSCLabo 21.03.05

ゴリラが教えてくれるコロナ時代の関係性 ~『身体性の共有』とは~

ゴリラが教えてくれるコロナ時代の関係性〜『新体制の共有とは』〜

前京都大学総長の山極壽一氏はゴリラ研究の世界的権威ですが、「集団」すなわちORSC®で言うところの「関係性システム™」という点で、人類と他の類人猿を区別する特徴が1つあると言います。それは何だと思いますか?もちろん「言語の使用」というのは大きな特徴ですが、実はそれ以外に思いがけないものがあるのです。

答えは「家族」と「その他のコミュニティ」という「複数の関係性システム」に所属する、それらをマネジメントする、ということだそうです。人間以外の動物の集団活動では、例えば食料を手に入れる、そのために移動する、補食動物から身を守る、などなどの全ての活動は「単一の関係性システム」における行動になります。山極氏によれば、それはゴリラであれば「単独の家族」となり、チンパンジーであれば複数のオス、メスが集まる「共同体」となりますが、あくまで個体が所属するのは1つの関係性システムで、複数の関係性システムの間を行き来する、ということはないそうです。

すなわち、「家族」という関係性システムに加えて、「会社組織」という関係性システム、時にはパラレルワークで複数の組織に所属している、というのは動物としてかなり特異な関係性システムの形成をしていると言えるでしょう。

さて、この1年余のコロナ禍での環境の変化は、特に「リモートワーク」という形で、私たちの働き方と生活の両方に大きな影響を与えました。それまでは組織で働く人たちの大多数が通勤していたのが、「職場」と「家」が同じ場になったことで「家族」と接している時間が増え、その結果「関係性」が変わらざるを得なかった、という話も耳にします。また、新しく職場に入ってきたメンバーと前からいたメンバーの間での「関係性」が、特に「オンライン」でのコミュニケーションにほぼ切り替わったことで、難しくなったように感じている、などというケースもよく聴きます。これらは単にテクノロジーの問題だけではなく、複数の関係性システムに同時に所属したり、1つの組織から別な組織へと関係性システムを自由度が高く移動できる人類ならではのチャレンジなのです。

では、この変化の中で関係性システムを構築していくために、何が必要なのでしょうか?

オンライン時代に必要な「身体性」

山極氏はサルやゴリラは「身体的なつながりで群れを作る」と言います。これは必ずしも「身体接触」だけを意味するのではなく、「挨拶を欠かさずする」、「一緒に食事をする」、「同じ歌を歌う」などの時間と空間を共有する活動を一緒に行うことで関係性が継続されるということを意味します。例えば、逆にたった数日群れを離れただけでも、この「身体的なつながり」が絶たれるために、仮にそれが群れのトップだったサルであっても二度と同じ地位には戻れないのだそうです。そして、このような「身体性を通じた関係性の継続」は、実は人間においてもは欠かせないのではないか、と山極氏は提起します。

しかしながら、現代のデジタル・コミュニケーションにおいては「継続性」は担保できますが「身体性」を持ち込むのはチャレンジです。

ミーティングを定期的に持ったとしても、オンラインで資料が画面共有されつつ、大半のメンバーは画面オフ、プレゼンをしている人も反応がない中で、あまり抑揚もなくひたすら話し続ける・・・などと、リアルに場を共有していれば自然と現れるであろう「表情」「空気感」などの「身体性」を通じて共有される「非言語情報」はどんどん削ぎ落されていきます。また、テキストのコミュニケーションでは「声のニュアンス」のような情報は当然含まれません。オンラインやテキストのコミュニケーションは確かに便利ですが、関係性を維持するための「身体性」は構造的に疎外する傾向にならざるを得ないのです。

身体性×ORSC

「身体性」に関してORSCでは、アーノルド・ミンデル博士の提唱した「シグナル」という言語以外の情報を積極的に活用していきます。「シグナル」とは「視覚」「聴覚」「身体・運動」などの「チャネル」を通じた情報を指し、それらをコーチは解釈をせずに扱っていきます。個人的な意見になりますが、この「シグナル」を取り扱うことで、関係性を維持する「身体性」を少しでも持ち込めるのではないか、と考えています。

以下はオンライン・リアルを問わずORSCセッションでコーチ/リーダーがシグナルを扱う一例です(注1)。

  • ある場面で全メンバーが視線を上に向けて、沈黙している。そこで「今、沈黙が起きて、全員が視線を上に向けていますね。何が起きていますか?」と問いかける。
  • 組織の現状について対話しているチームが重たい雰囲気で言葉も少ない。そこで「今の組織に起きていることにBGMをつけるとしたら、どんな曲になりますか?」と問いかける。
  • 新しいチームのアクションについて、メンバーが大きな身振りで説明している時に「今、大きな身振りをしながら説明をしていますが、このアクションのエネルギーをジェスチャーで表現するとしたら、どんな感じですか?ちょっと全員でやってみましょう」と投げかけて、全員でジェスチャーしてもらう。

言語によるディスカッションを逸脱しているこれらの関わり方は、通常のオンラインミーティングではあり得ないことかもしれません。しかし、実際に一緒にジェスチャーをしたり、一緒にハミングをしたりするだけで、単なる言語化では及ばない共有体験を持てる可能性があります。例えば、多忙な業務の合間であっても、一緒にジェスチャーをすることでエネルギーがチャージされて、ディスカッションにチーム全体で集中できたり、BGMが「ダース・ベイダーのテーマ」(注2)だったチームは、その音楽をみんなで口ずさみつつ、大変だった時期を笑い飛ばすエネルギーに変えることができたり、といったことが起ききたりします。

このような「身体性の共有」が関係性の維持構築にパワフルであることを、我々システムコーチは経験的に知っているのです。

さて、関係性のための「身体性の共有」という観点から「シグナルを扱う」ということについてお伝えしましたが、どのように感じられましたか?

オンライン時代の新たなチャレンジ

実はセッションやORSC公開講座で「シグナル」についてお伝えすると、

「ちょっとこれはうちの組織(チーム)では難しいですね」

という抵抗感が大なり小なり出てきます。確かに通常のビジネス・コミュニケーションではないので、当然の反応かもしれません。しかし、現在の変化は、狩猟採集から農耕牧畜へと転換した農業革命、さらには産業革命、そして昨今の情報革命から、さらなる「革命」へと突入しつつあるかもしれない、と山極氏は示唆します。遥か昔に森林から草原という新しいフィールドに挑戦していった時に「共に食事をする」「共に子どもを育てる」といった、それまでになかった「身体性の共有」体験をすることで、我々の祖先は新しい関係性を創っていきました。

だとしたら、新たに「オンライン」というフィールドへと足を踏み入れた現代の人類は、テクノロジーだけに限らず新しいトライをしてみる必要があるのではないでしょうか。そして、このチャレンジこそ、実は我々人類の関係性システムをさらなるステージへと進化させる起爆剤になるのかもしれません。

注1:本記事に登場するセッションの例や人物は筆者が経験した様々なケースを守秘義務に留意しながら複合して創作したものであり、特定の人物、チーム組織のものではありません。
注2: John Williams 作曲  1980年 「帝国のマーチ(ダース・ベイダーのテーマ)」
参考文献:「スマホを捨てたい子どもたち 野生に学ぶ「未知の時代」の生き方」 山極寿一著 (ポプラ社、2020/6/8)

  • 佐藤 扶由夫

    • 佐藤 扶由夫
    • CRR Global Japan合同会社トレーナー
    • ORSCC, PCC, CPCC

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    東京外国語大学卒業 東京都出身。
    私立中高一貫校で教鞭をとる中でコミュニケーションの難しさ、面白さに魅かれ、「未来塾異文化対応訓練コース」(現 中津燎子の英語未来塾)などで探求を進める。2003年にコーチングを学び始め、その後勤務校で同僚の教職員にコーチングセッションを行う組織内コーチ(スクール・コーチ)を業務として開始。7年間でのべ1200時間のセッションを行いながら、学校組織活性化の一端を担った。
    独立後はグローバル企業から地域の小規模な組織まで組織開発や研修などで関わっている。
    また、「自然、人、つながり」を自身のライフテーマとして世界最大規模のアウトドア・サバイバルスクールである Tracker School や Boulder Outdoor Survival School
    など国内外の様々なアウトドア・プログラムに参加し、自然に対する学びを深めてきた。
    自然環境と社会の両方へ働きかける活動の一環として、チェンジ・ザ・ドリーム シンポジウムのトレーニングリーダーを経て、八ヶ岳山麓の森に移住し新しい生活のあり方を家族と共に模索している。

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