with コロナのグローバル時代、リーダーはどうあるか

かつてないスピードで変化する世界

世界のアスリートが日本に集結した異例づくしの東京オリンピックの余韻が残る夏、度重なる緊急事態宣言に人々の活動は大きく制限され、日本社会の閉塞感と内向き思考はかつてないほどに強まっています。

自由の象徴とも言える国境を超えた人の移動を示す年間出国人数は、2019年の2000万人から、2020年は300万人(▲85%)へと落ち込みました(*1)。飲食店、観光業、小売業、航空業など多くの事業者の我慢も体力ももはや限界に近づきつつあります。

COVID19は世界各地に心理的鎖国状態を生み出しながら、かつてないスピードで先行きの見えない未来へと時代を変化させています。

イギリスのEU離脱に始まって、自国第一主義を声高に叫ぶ政治家達の台頭、米中の通商対立の先鋭化、ブラックライブズマター運動、香港民主化運動の制圧、ミャンマークーデター、アフガニスタンにおけるタリバン政権支配など、めまぐるしく象徴的な事件が次々と起き、おびただしい数の人々がその影響を受けて苦難を余儀なくされています。

また、世界で貧困率と失業率が増加した結果、SDGsの発効以来、初めて取り組みが停滞しているとサステナブル・デベロップメント・レポートは伝えています(*2)。

人類共通のゴールを豊かな国のファンタジーとしてお茶を濁すわけにはいきません。格差や分断を助長する社会、経済、政治体制に挑戦し、公平性のある持続可能な社会を実現できるかどうか、まさに今が正念場です。

グローバル化は複雑で多面的

1980年代に青春時代を送り”We are the World”を聴いて、いつか世界は1つになるとうっとり夢見ていた筆者にとって、グローバル化は憧れであり、アイデンティティの一部でした。ナショナリズムのゴースト(*)が大きく頭をもたげ、グローバル化がスゴスゴと後退しているかに見える現状には、個人的な敗北感すら感じてしまいます。そしてそれは私だけではないのではないでしょうか。

(*)「ゴースト」とは、その場にはいない、もしくは言葉にはされてはいないが、関係性に影響を与えている存在・人物のことを表す、アーノルド・ミンデル博士が提唱されたコンセプトです。

ではグローバル化は本当に衰退の一途を辿っているのでしょうか?世界を一面で切り取るとつい悲観的にもなりますが、実態はずっと複雑で多面的なのだと気付かされます。

コロナ禍でデジタル化はあっという間に私たちの日常生活に浸透し、ネットショッピングや在宅勤務が当たり前になりました。個人的なお話ですが、先日、20年間前カナダに在住していたころの隣人から突然「zoomしよう!」と声がかかり、あの頃は赤ちゃんだった彼が立派な青年へと成長した姿に感動し、今はまっているNetflixの番組を夢中で共有した喜びはこの1年間のハイライトです。

企業活動に目を向ければ、グローバルなサプライチェーンが機能麻痺に陥り、海外生産拠点を国内に戻さざるを得ないような動きもある一方で、積極的に国際M&Aを進め、人材の多様化をはかっている企業も多くあります。こんな時代だからこそ世界から魅力的な人材が集まる組織へと進化し、DEI (Diversity Equality & Inclusion )を進めて、変化に強い、イノベーションを起こせる文化風土を本気で創ろうという先駆的な組織が増えています。

こうした中、長期のビジョンを持つ組織にとって、チームへのシステムコーチングは力強い味方であり、導入したいとお声がけいただく機会も以前よりもはるかに増えてきました。それは同時に、世界の変容から大きな影響を受けながら、チームや組織を率いるリーダーにとっての不安やストレスがどれほど大きいかも示唆しています。

コントロールできるのは自分自身

ORSCプログラムは次の問いで始まります:
「あなたは関係性の中でどんな人でありたいですか?」。

人は状況や関係性が複雑で不透明になると、「相手が◯◯だから」とか「社会が悪いから」とか「コロナのせいだ」など、自分の外を責めることにエネルギーを費やしがちです。もちろんそれは一部正しいし、全うな理由があり、必要なだけその声を表現したらよいのです。ただ、そこからは本質的な変化は起こりません。

ここでORSCの智慧「コントロールできるのは自分自身」“Locus of Control is Self”をご紹介します。どんなに人を変えたくても、私たちが変えられるのは自分自身だけです。困難な状況や関係性がままならないときこそ、「この関係性の中で、私はどうありたいのか?」に立ち戻り、意識的に意図的に、そのあり方から関わってみます。

願う変化はすぐには訪れないことが多いので、これは簡単なことではありません。
けれど環境の犠牲者になるのではなく、自分自身にコントロールを取り戻すと、内側に自由と自立と尊厳が取り戻され、ずっと面白く広がりのある物語が展開されていきます。

そしてチームの中でそれぞれのメンバーが自分はどのようにあるかを共有しあい、その合意が守られると、心理的に安全な場が実現し信頼関係が築かれてその後のアクションがずっと進みやすくなります(ICFチームコンピテンシー4:信頼と安全を育む)。

忘れられないリーダー

複雑で先の見えない状況の中で「コントロールできるのは自分自身」を体現し、組織に大きな変容をもたらしたグローバルリーダーをご紹介します。

とある欧州系企業が伝統ある日本企業を買収した時のことです。買収された側の感情的な反発は凄まじいものがあり、M&A後の統合は困難を極めていました。同僚と私はシステムコーチとして、双方の経営幹部がその感情的対立と向き合い、本音を共有し、ワンチームとして協働関係を築いていくプロセスに関わりました。多くがスタート時点では悲観的でしたが、このチームは4ヶ月のシステムコーチングを通じて大変容を遂げたのです。

この時のドイツ人のCEOを私は今も忘れることはありません。それまでの習わしとして、外国人リーダーが入る会議は全て英語で行われていたため、このシステムコーチングも英語での実施、もしくは通訳を入れる前提で企画が進んでいました。

しかし彼は、全てを日本語で行い、通訳も必要ないと逆提案しました。

メンバー一人一人が腹を割って本音を語り合うことが一番大切で、それは母国語でのコミュニケーションだからこそできること。自分は全てを理解する必要はないし、その場で皆の表情と声のトーンを聴いてさえいれば何が起きているかはわかる。本当に必要な時には皆に助けを求めます」と。

4ヶ月間、常に静かに集中して場に耳を傾け、最小限の発言で、暖かい眼差しをチームに向けながら参加されました。パワーを完全に手放し、ただ愛で受け止める、そんなあり方でした。

今思うと、彼のあり方そのものが、ここには敵はいない、何を言っても不利益はない、安心してよい、これから仲間になるんだよ、というメッセージでした。

このリーダーのあり方から大きな影響を受けた幹部チームがまず取り組んだのは、新しい経営チームとしてお互いどうありたいのか、というチームの意図的な協働関係(DTA :Designed Team Alliance)でした。何をするかの前に、お互いにどんな雰囲気や文化を一緒に作っていきたいのか、難しいことが起きた時にこそお互いどうありたいのか、を話し合いました。このDTAはこの後、新会社のコーポレートカルチャーへと進化して、全社員と共有されていくことになりました。

複雑性が高くて先が見えにくい時こそ「自分はどうありたいのか」を意図する。COVID19が大きな影響を持つこの時代に通じるものがあるのではないでしょうか。

「あなたはこの時代この世界で、どんな人でありたいですか?」


(*1) 2021年6月 日本人出国者総数 出入国管理統計
(*2) 2021年6月16日 サステナブル・ブランドジャパン
https://www.sustainablebrands.jp/article/story/detail/1203005_1534.html

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