システム経営〜新たな経営スタイルの実証実験中

大きな時代の変化と共に今までの生活や働くスタイルが激変したこの数年です。これをきっかけに生活スタイルや自分らしく自由に働くこと、そのために起業を考えた方も多いのではないでしょうか?2020年度に行われた起業と起業意識に関する調査*1   では、『10年以内に起業する』『時期未定だが起業したい』で54%、なんと、半分以上の方がなんらかの起業意識があるそうです。

システムコーチとして、ベンチャー企業に関わらせて頂くことも数多くあります。例えば、志を同じくして立ち上がった企業だったはずが目の前の業務に忙殺される余り、気づいたらバラバラになってしまった、関係性悪化によるプロジェクトの頓挫、経営方針の違いによる確執、役割の違いから生じる格差の影響など、関係性の課題は様々です。

かく言う私たちCRR Global Japanも2019年に独立したベンチャー企業です。今回はそんな私たちが日々の経営でシステムコーチングとその智慧をどんな風に使っているのか?私たち自身の『システム経営』の一部について書いてみようと思います。

新たな経営スタイル「システム経営」の実証実験

独立を決意した時に全員で実証実験することを選択しました。それは、私たちが提供しているシステムコーチング®の世界観、哲学、智慧を最大限活用しCRR Global Japanの経営を通して社会の中で体現していくことです。

「多様であり、それぞれの強みを活かしながら、チームとして合意し共に前進していく、私たちにとって正しい関係性を基盤に新たな経営スタイルで壮大な実験をしてみよう!」とワクワクしながらスタートした時は9名、現在は14名の代表者が同じ立場でこの経営スタイルを実践し始めて間もなく3年目を迎えます。

事業の1つとしてシステムコーチ養成プログラムがあります。コロナ前は対面で1クラス20-28名の参加者の皆さんと2日もしくは3日間のワークショップを開催していました。当然ながらコロナ禍の影響で、対面を継続実施するのか?当面は全てのコースをオンラインへ移行するのか?また対面を継続した場合は中止の判断はどうするのか?しばらく開催そのものの中止を決断するのか?など、次から次へ予期せぬ判断を迫られました。何よりも限られた時間の中で方向性を失わず選択、実行していくことが求められましたが、それは私たちだけではなく、世界中の企業で起きていたことでしょう。

このような場合、多くの会社では代表や経営幹部、然るべき部門で判断が下され、メンバーは決定事項に従うという流れではないでしょうか。外的影響で変化を迫られる時、関係者が多ければ多いほど、それぞれの考え方や大切にしたい価値観があり、普段は緩やかに多様性と受けとめられていたことも違いが際立ち、受けとめきれず、拒否や争いになることが容易に起きます。スピード感も含め一部の人が決定し、他のメンバーが従うというプロセスは当然かも知れません。

では、CRR Global Japanではどのようなプロセスだったのでしょうか?

全ての声を聴き、全ての声を出す

普段からミーティングでは全員がどんな観点であっても、意見、感じていること、自分の気持ちなどを言葉にして伝えています。それは緊急事態宣言下の対応を話し合う時であっても同様、もしくは普段と違う状況であるからこそ、より意識的に丁寧なミーティングの場づくりと発言を全員が心掛けます。

ミーティングでは、何をどうするのか?という対応方法は一旦脇に置き、まずはそれぞれの感じていることや気持ちを言葉にします。コロナ禍での命の重さ、不安や恐れ、参加者やトレーナーの安全確保、家族に関わること、地域での誹謗中傷の懸念、楽観的な視点、使命感を貫く信念、様々なことが語られます。

どのようにすべきかだけではなく、そこにはそれぞれの強い感情を含んだ意見も含まれるため、発言の度にまるでジェットコースターに乗っているように会議の雰囲気がどんどん変化していきます。恐らく一般的な会議だと、いたたまれず席を外したり雰囲気にのまれ一言も発言できない人が出るかも知れない程の空気感ですが、そんな中でも私たちは互いにその場に居続け、全ての声を聴こうとし、全ての声を出そうとします。そしてまだ聴かれていない声がないかを全員で確認します。

一刻も早く対応を決めたい中で、なぜそんなことを話すのでしょうか?

チームの潜在的な声を顕在化させ、チーム全体を捉える

「システムに属する全てのメンバーはシステムの声だ」
メンバーそれぞれが発言していることは個人としてだけの意見ではなく、チーム全体にとって必要でどれも大切なことを声に出しているというシステムコーチング「RSIの5原則」*2の1つを体現している特徴的な場面です。

対応策を考える前に、このチームの中で潜在的な声をメンバーを通して顕在化させ、それを情報として共有し、可能な限りシステム(チーム)全体を捉えていきます。

スケジュールの都合で参加できないメンバーは自身の声を事前に伝えた上で、決定したことについては合意します。それは欠席しているから発言の機会や決定権が無いのではなく、システム全体(チーム全体)の中で聴かれる必要がある声は、自身がそこに居なくても誰かを通して発言され、必要な声は全て聴かれていると信じているからです。そして最大限の全ての必要な声(現実的/感情的な情報)を元に判断し、このプロセスで合意したことを全員で実行します。

ある一部の人が決定した方が早いのかも知れません、従っている方が色々と考えなくて楽なのかも知れません。それも有効な1つの方法です。同時に経営スタイルも多様な時代を迎えているのではないでしょうか?

私たちCRR Global Japanはそんな変化の時代をシステムコーチングという智慧と生き方でシステム経営の実践を通じて、多様な社会の一端を担っていきたいと考えています。

*1 日本政策金融公庫総合研究所データ
https://www.jfc.go.jp/n/findings/pdf/topics_210316_1.pdf

*2「RSIの5原則」はシステムコーチが関係性システムに関わる時の原則として、CRR Global が提唱しています。 出典「ORSCプログラムマニュアル」